DMAIC とは
ビジネスの世界では、聞いたそばから忘れてしまうような業界用語を耳にすることがあります。「DMAIC」(「ディーマイク」)はその典型例でしょう。簡単に説明すると、DMAIC とは、定義(Define)、測定(Measure)、分析(Analyze)、改善(Improve)、定着(Control)の頭文字を取った言葉であり、製品や設計、プロセスを段階的に改善して最適化する、データに基づく問題解決手法のことを指します。
モトローラのエンジニアだったビル・スミス氏が 1980 年代にシックス シグマ手法の一部として開発した DMAIC では、測定と分析によって業務を可能な限り効率化することを目指します。その目的はプロセスの改善です。
DMAIC プロセスを構成するフェーズ
DMAIC を構成する相互に結ばれた 5 つのステップは、効果が積み重なっていくように設計されています。つまり、前のステップで生成された情報とデータを使って、わかったことを反復的に見直していくのです(ヒント:Dropbox ユーザーの多くは、DocSend で参照できるリアルタイムの分析データを高く評価しています)。
定義:
定義フェーズでは、問題は何か、その問題を解決するには何が必要かを明らかにします。当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、問題と目標を明示し、目標達成に必要な作業の範囲を示すこのフェーズは非常に重要な役割を果たします。これらを定義することで、品質確保に重要な影響を与える要素(「CTQ」)が明確になるからです。チーム リーダーやプロジェクト マネージャーは通常、チームやプロジェクトの憲章で使う SIPOC 図を作成します。SIPOC とは、供給者(Supplier)、インプット(Input)、プロセス(Process)、アウトプット(Output)、顧客(Customer)の頭文字を組み合わせた言葉です。
測定:
問題を把握できたら、次は、これから行う変更の影響をどのように測定して観察するかを決めていきましょう。測定フェーズの目的は、現在のプロセスのパフォーマンスを把握し、分析対象とするデータを決定することです(その後、データ収集計画に基づいて、変更を加えながらパフォーマンスを観察し、プロジェクト終了時点での結果と比較します)。
分析:
これまでの作業で、現在のプロセスに対して意思決定を下すための土台になるベースライン データを入手できたことになります。ひとまずお疲れさまでした。さてこの分析フェーズでは、入手したデータを検討していきます。現在のプロセスのどこで問題が発生し始めるのかを確認するため、データに基づいて現在のプロセスのマップを作成します(この作業で高度なシックス シグマ ツールを使用する必要はありません。根本原因分析に広く使用されている特性要因図やパレート図で十分です)。根本原因がいくつか見つかったら、チームでの作業を開始し、この DMAIC プロセスの焦点をどこに置くべきか、メンバーの意見を聞いてみましょう。
改善:
いよいよ、プロセスに対する改善策の適用を開始します。この改善フェーズでは、チーム メンバーと協力しながら、実装して測定する効果的な問題解決策を見いだします。ここでは、ブレインストーミングや効果的な会議を実施することが重要です。解決策が見つかったら、実装の前にテストを実施し、ミスの予防策を取り入れます。この作業では、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)を繰り返す PDCA サイクルを用いるのが一般的ですが、故障モード影響解析(FMEA)を使うと潜在的な問題を予測できます。最後に、現在のプロセスに存在する問題の解決方法を示した詳細な実装計画を作成し、それに基づいて解決策を実装します。
定着:
最後のフェーズでは、解決策の効果を確認し、その効果を維持するための取り組みを行います。ここでは、プロセスに対して適用した変更の影響を継続的に評価するための、その名のとおりの定着計画を策定します。あわせて、パフォーマンスが再び低下し始めた場合に備えた対応計画も必要です。改善をどのように実施し、どのような解決策を適用したかを後から確認できるようにしておくと、いざというときに大変役立ちます。したがって、改善プロセスを適切に文書化し、バージョン管理を実施することが欠かせません。
DMAIC についてすでにご存じの方は聞いたことがあるかもしれませんが、この手法では最初に「認識(Recognize)」というフェーズが置かれることもあります。意味的には少し違いがあるのですが、両者は基本的に同じものを指しています。
DMAIC のメリットとは
産業界では、シックス シグマと DMAIC の導入が、無駄、欠陥、過剰生産の排除を目的としたリーン生産方式の普及を促しました(面白いことに、シックス シグマという名称は、そこで使用されている統計モデルの名前に由来しています。統計学では、標準偏差のことを「シグマ(σ)」とも呼ぶのです)。
あるとき製造業者は、平均的な品質と合格品質水準の限界の標準偏差が大きいほど、その限界を下回りにくくなることに気付きました。そこでシックス シグマ(6 標準偏差)が、欠陥を減らしプロセスを改善する、生産上の限界を定義する絶対的な基準となったのです。
1990 年代から 2000 年代の製造業では、この統計学的アプローチによる根本原因の特定および解決と「カイゼン」などの手法が、製造工程の改善に不可欠な存在でした。
DMAIC が効果を発揮するのは製造業界に限りません。その最大の強みは、極めて厳格な問題解決手法であるという点です。新しいプロセスの導入を伴う問題解決の取り組みは、「何が変わったのか」という点について明確な答えが得られないまま終わってしまうことが珍しくありません。これに対し、データを使用する DMAIC では、進捗状況の正確な評価と測定が可能です。
標準化された 5 ステップのフレームワークが提供される DMAIC では、プロセスのどの段階にいるのかを迷うことがありません。すべての決断と進捗を文書化して記録できるので、1 つのフェーズから次のフェーズへスムーズに移行できます。またプロセスを明確に把握できるため、チーム メンバーは現在の目標に沿って作業を進めることができます。
DMAIC が特に評価されているのは、反復的かつ継続的な取り組みである点です。定着フェーズの存在により、プロセス オーナーは、最適化の影響を継続的に観察することを義務付けられます。またデータ観察計画が盛り込まれているため、新しいデータは自動的に新しい測定フェーズのベースラインとなります。このため DMAIC では、問題の発生やビジネス プロセスに対する影響を継続的に把握でき、発生した問題にすぐ対処することが可能です。
DMAIC はどのような状況で使用すべきか
DMAIC を実践するためには、チームの調整と理解のための時間が必要です。マネージャーは、DMAIC の恩恵が最も大きくなるのはどのプロセスやチームであるかを検討してみるといいでしょう。
理解しておく必要があるのは、DMAIC が特定の問題、業種、組織文化に必ずしも適しているとは限らないという点です。プロセスの問題点を容易に特定でき、説得力のあるデータに基づく有望でシンプルな解決策がすでにあるのなら、必ずしも DMAIC のプロセス全体を実施する必要はないのです。
プロセスの問題が比較的複雑なときやリスクが高いとき(パフォーマンスの低下を許容できない場合など)、DMAIC は賢明な選択肢になるかもしれません。予算が事前の想定を超えてしまう場合でも、プロセスを正しく実装できれば、それに見合う結果が得られるはずです。
DMAIC で問題を解決
初めて DMAIC プロジェクトに取り組む場合、特に解決すべき大きな問題を抱えている場合は、大変な思いをするかもしれません。DMAIC は、科学のプロセスにも似た、学術的な問題解決手法です。発見、反復、段階的な改善という点に目を向ければ、チームにとってのベスト プラクティスを見つけ出し、最終的には測定可能な成果を組織にもたらすことができるでしょう。