PERT - プログラム評価とレビューのテクニックの歴史
PERT とは「Program Evaluation and Review Technique(プログラム評価とレビューのテクニック)」の頭文字を取ったもので、50 年以上前からさまざまな組織で使用されている手法です。元々、1958 年に米海軍特別プロジェクト本部で使用するために開発された PERT は、大規模で複雑なプロジェクトの計画を支援するために設計されたプロジェクト管理システムです。この手法では、まずプログラム全体を評価し、スタートする前のプロジェクトの詳細を詳細に分析します。ポラリス潜水艦のミサイル設計や、1968 年にグルノーブルで開催された冬季オリンピックにもこの手法が採用されました。その後も同様の管理概念が開発され、改良されてきましたが、PERT はそうした手法の草分けとなるものでした。
PERT によるプロジェクト管理の仕組み
先ほど述べたように、PERT の設計で想定されている実施対象は、非常に複雑で、いくつかの作業を続けて行うことで完了するプロジェクトや、他のプロジェクトと歩調を合わせて実行するプロジェクトです。PERT の全体的な目標は、プロジェクトを予定どおりに予算内で完了することと、スコーピング段階で全体的な見通しを正確に評価することです。
PERT のプロジェクトのスコーピングとは
スコーピングは PERT の重要な部分で、ここでプロジェクトのためのアクション プランを作成します。このテクニックでは、上手くいかない可能性があること、必要以上に時間がかかりそうなこと、さらにはプロジェクト サイクル全体の重要な「マイルストーン」を考慮に入れます。チーム作業で行う日常的なスコーピング テクニックと比較すると、PERT は、リソース管理から個人のパフォーマンスまであらゆる要素を用いるので、非常に徹底しているように見えるかもしれません。軍事分野にルーツを持つ PERT は、要するに石を 1 つ残らずひっくり返して調べるような準備の手法です。
スコーピングに関する PERT の用語
PERT のスコーピングでは、次の用語を使用して、主要なイベント、時期、リソースを定義します。
イベント
PERT のイベントは、プロセスのマイルストーンとして機能します。イベント自体はリソースを必要としませんが、それに至るすべてのタスクが完了するまで、PERT のイベントを完了することはできません。
- PERT のイベントとは、1 つまたは複数のアクティビティの開始または完了を指す
- 先行イベントは、別のイベント(1 つまたは複数)の直前にある
- 後継イベントは、別のイベント(1 つまたは複数)の直後に発生する
アクティビティ
PERT のアクティビティはリソースを必要とするタスクです。
- PERT のアクティビティとは、時間、資材、資金、機械などのリソースを使い切るタスクを実行することです。PERT のアクティビティは、その開始を指示するイベントが完了するまで実行できません。たとえば、イベントの前段階のいずれかが完了していない場合、新しい段階を開始することはできません。
- PERT のサブアクティビティとは、PERT アクティビティを分割して実行できるより小さなアクティビティのことです。たとえば、「設計図を準備する」というアクティビティを複数回に分ける必要がありそうな場合は、「設計図 1、2、3 を準備する」というように分割することができます。
時間
PERT では、時間が手法の重要な要素です。PERT の時間は、最適なパフォーマンスに加え、障害も考慮されています。
- 楽観的時間とは、すべてがスムーズに進み、予想以上に上手くいくことを前提とした、アクティビティ完了に必要な最短時間のことです。
- 悲観的時間とはその逆であり、すべてが誤った方向に進む可能性があり、実際に誤った方向に進むものと想定して、タスク完了に必要な最長時間を設定します。ただし大災害は考慮しません。
- 最確時間とは、すべてが通常どおり実行されると仮定し、予想される必要な時間としてそこそこ満足できる妥協点です。
- 期待時間とは、上手くいかないことをある程度許したうえで推測した最善の達成時間であり、日常的なタスクを完了するためのモデル平均時間に基づいています。
管理
他のいくつかの用語は、各イベントやアクティビティの重要性、進行状況、予想時間を定義しています。
- クリティカル パスは、初日から完了日までのプロジェクト全体の概要を示すもので、チームがすべてを完了するために必要な合計時間(日数、月数、年数)を定義するのに役立ちます。クリティカル パス法は、実際には PERT と同時期に開発された別のアプローチですが、この 2 つは基本的に併用されます。
- クリティカル アクティビティは、予定の超過や、計画以上のリソース消費ができないタスクに与えられる用語です。クリティカル アクティビティとは、その名のとおり、プロジェクトの成功に欠かせないものです。
- フロートやスラックは、プロジェクトの間に利用可能な時間とリソースを指します。フリー フロートとは、チーム作業が遅れてしまった場合に活用できるリソースのことで、ネガティブ スラックとは、リソースが不足しているタスクのことです。
- リード タイムとは、あるイベントに到達するために先行イベントを完了させる必要がある時間のことです。
- ラグ タイムとは、あるイベントを別のイベントに続いて最も早く完了できる時間のことです。
- ファスト トラッキングは、クリティカル パス全体を短縮するために、クリティカルなタスクを並行して実行する場合に行われます。
- クリティカル パスのクラッシュとは、クリティカル パスのアクティビティに追加リソースを投入することで、完了に必要な時間を短縮し、クリティカル パスを短くすることです。
PERT によるプロジェクト計画の手順
では、重要な用語をすべて確認したところで、次はそれを実践する方法を説明します。
- タスクの特定:プロジェクトを完成させるために必要なすべてのタスクを設定する必要があります。これには少し時間がかかるかもしれませんが、複雑なプロジェクトを抱えているのであれば、この早い段階で可視化することが重要です。
- 適切な順序の設定:各タスクで最良の成果を上げるために最も適した順序を決めます。複数のタスクを並行して実行できることを忘れないでください。タスクの依存関係を十分に考慮して順序を設定します。
- タイミングの予測:各タスクに必要な時間を計算し、楽観的時間、悲観的時間、期待時間を算出します。
- PERT 図の作成:プロジェクトを視覚的に表します。
- フロートの割り当て:各タスクが必要とするリソースの数を把握します。
- クリティカル パスの見積もり:これまでの枠組みを基に、プロジェクト全体が完了する日を設定します。
PERT でのタスク プランニング
PERT 表を使うと、タスクのタイミングやアクティビティの順序を記録しやすくなります。PERT 表は、計画の際に有用なだけでなく、後でプロジェクト全体を振り返るためのタイムテーブルとしても便利です。PERT 表の例を以下に示します。
アクティビティ |
説明 |
先行工程 |
最良値 |
標準 |
最低値 |
見積もり |
---|---|---|---|---|---|---|
0 |
開始日 |
|
0 |
0 |
0 |
0 |
A |
スタッフの選定 |
0 |
10 |
15 |
20 |
15 |
B |
機材の選定 |
0 |
5 |
10 |
15 |
10 |
C |
設計図の作成 |
A |
10 |
12 |
18 |
12 |
D |
スタッフのオンボーディング |
A |
7 |
10 |
15 |
10 |
E |
新しい機材の設置 |
B、C |
48 |
72 |
96 |
72 |
PERT ネットワーク図の作成
PERT 表が完成したら、対応する PERT チャートを作成しましょう。PERT チャートは、プロジェクトの流れを視覚的にわかりやすく表現するフロー チャートとして活用できます。また、デジタルのガント チャートを利用してもかまいません。図には、アクティビティを表すノードと、その楽観的時間、悲観的時間、期待時間を書き込む必要があります。
完成した PERT ネットワーク図の例は、こちらをご覧ください。
PERT のメリットとデメリット
すでにおわかりのように、たとえ計画段階であっても、PERT の準備は大変です。あなたとチームは、選択したプロジェクトにとってこれが最良の管理手法であるかどうかを慎重に考える必要があります。一般的に、PERT のアプローチを小規模なプロジェクトに合わせようとしても上手くいきません。さらに、かなり簡単なプロジェクトに適用しようとすると、「船頭多くして船山に上る」ような状況になってしまうかもしれません。この手法を進める前に、以下のメリットとデメリットを考えてみてください。
PERT のメリット
- プロジェクト全体が明確でわかりやすく可視化される
- プロジェクト開始前に、プロジェクトのリソースとパフォーマンスを詳細に分析できる
- 構造化されたアプローチの明確なタイムラインを作成できる
- 明確に定義された役割と時間が全員に割り当てられ、説明責任を果たすために役立つ
- 遅れの原因がわかりやすい
- 明確な共同作業プランを通じてチーム メンバーのモチベーションを高めることができる
- 誰がいつ何をすべきか理解しているため、プロジェクトをより早く完了できる(期待を上手く伝えられないために遅れが生じることはない)
PERT のデメリット
- 必要なアクティビティを逐一分割し始めると、圧倒的な数のタスクになる場合がある
- 小規模なプロジェクトや単純なタスクにはあまり適していない
- ノードやチャートは期待値を表すには便利だが、現実の状況を表現するにはふさわしくない
- プロジェクトが進行し期待値が現実になるとは限らない
- スコーピング段階で管理業務が大幅に増加する
- 時間の予測が重圧に感じられ、クリエイティブな仕事の妨げとなる場合がある
PERT の手法は自分のチームに適しているか
プロジェクトに多くの関係者とタスクが含まれている場合、設計図として機能する PERT ネットワーク図を持つことで、誰もが今後の基盤として使用できる強力なプロジェクト管理ツールを手に入れることができます。とは言え、プロジェクトがそれほど複雑でなければ、事態を混乱させるだけであり、あまり詳しい分析の要らないものをスコーピングすることで貴重な時間を浪費するだけかもしれません。
PERT の代替ソリューションとは
PERT を全面的に採用しなくても、この手法の発想の一部をチームで役立てることができると思う場合は、事務的な作業がやや少ないながら、同じ考え方を実現できるツールを探してみてください。Dropbox には、チームの作業を簡単に把握できるタスク管理ツールがあります。Xero、Monday、Trello などとのアプリ インテグレーションを通じて、Dropbox 内から財務管理やチーム タスクの管理、問題への対処が簡単にできます。
チームが本当に必要としているものは複雑な計画手法ではなく、むしろ明確に定義された作業プロセスとそれを達成するためのツールであることに、プロジェクト マネージャーは気づくかもしれません。