執筆:DocSend コンテンツ マーケティング マネージャー ジャスティン・イッツォ
アイデアを形にしてビジネスを軌道に乗せるため、起業家の多くは遅かれ早かれ外部からの資金調達を必要とします。しかし事はそうスムーズには運びません。資金調達のためには本業に費やす時間を削らなくてはなりません。また、自身のビジネスを最も魅力的なストーリーにして伝える方法がわからないということもあるでしょう。情報を整理したわかりやすいプレゼン資料を作れれば、失敗と書き直しを繰り返さなくても、すばやく資金調達にこぎ着けることができるでしょう。
しかし、ただでさえ忙しい起業家です。投資家がほしい情報を把握するのは簡単ではありません。DocSend の調査結果は、投資家にビジネスの魅力を適切に伝えるための、データに基づくインサイトを示しています。このインサイトを活用して資金を獲得したら、忙しい本業へと戻りましょう。
DocSend の調査結果が起業家の役に立つ理由
DocSend では資金調達に関する調査を実施しました。さまざまなプレゼン資料から得たデータを基に、スタートアップが成長する各段階で起業家たちが実践できるインサイトを導き出しています。DocSend のトラッキングと分析で匿名化データを集計し、DocSend 上でプレゼン資料がどのように共有され閲覧されているかを明らかにしました。投資家がプレゼンを見ている平均時間をはじめ、起業家が 1 週間あたりにプレゼンを送付する投資家の平均人数まで、ありとあらゆるデータを収集できました。
この調査では、前述のデータを起業家の資金調達結果のデータと結びつけました。その結果、資金調達のトレンドが時代とともにどう変化してきたかが明らかになり、今後の見通しについても予測が立てられるようになりました。このデータを基に起業家は、現代の投資家が本当に必要としている情報が何かを理解することができます。
リモート ワークやオンラインでの投資家会議が一般的になった今、起業家が他のスタートアップとの差別化を図るためには、しっかりと練られたプレゼン資料がこれまで以上に必要になってきます。以前は対面でのやり取りが重要でしたが、今後はそうした側面が薄れていくでしょう。さらに、現代の投資家がプレゼン資料を確認する時間は平均で 3 分に満たないこともわかりました。DocSend が明らかにしたインサイトを踏まえることで、起業家はよりスムーズに資金調達を行い、自社のストーリーをコンパクトかつ魅力的に伝え、投資家との関係を築けるようになります。
力の入れどころを見極める
プレゼンのデータや資金調達の統計を調べる中でわかったことがあります。ベンチャー キャピタリスト(VC)はこれまでになく熱い視線をスタートアップに向けるようになりましたが、プレゼン資料の中で彼らが重視している情報についてはこれまでと変わりません。投資家は、スタートアップが魅力的な製品アイデアをしっかりとしたビジネス ストーリーに結びつけられるかどうかを知りたがっています。
まったく同じ企業は存在しません。そしてそれは、プレゼン資料にも言えることです。しかし、優れたプレゼンは構成という点ではどれも共通していて、その枠の中で自社独自のストーリーを伝えています。おおむね 4 つのテーマにそって、12 セクションほどで構成されています。具体的には、次のような分類です。
- ビジネスの概要:企業理念、創業メンバー、課題、解決方法、製品概要のセクション
- 収益化の計画と財務実績:ビジネス モデルと財務のセクション
- プロダクト マーケット フィット:市場規模、時期(なぜ今なのか?)、トラクション(推進力)、競合分析のセクション
- 資金調達目標:資金調達の目標を説明するセクション
構成が命
多くのプレゼンは約 20 ページの分量で、1 スライドあたり 50 単語(英語)ほどです。そのため、どのページもどのセクションも、伝えるべきメッセージをはっきりさせておく必要があります。先ほど紹介した 12 種類のセクションや 4 つのカテゴリーに該当しないスライドがある場合は、プレゼンから除外しても問題ないか考えてみてください。投資家のほとんどは、ごくわずかな時間しかプレゼン資料を読みません。そのため、最も重要なアイデアを前面に出して、すぐに読み手の興味を引きつけられるようにしておきましょう。プレシード ラウンドのデータから、投資家の興味について考えてみましょう。
当社のデータによると、2020 年に資金調達にこぎ着けたプレゼン資料は、投資家が 4 分以上をかけて閲覧していました。一方、資金を得られなかった資料の閲覧時間は、わずか 1 分半という結果でした。ここからわかることは、スライドの最初の部分で興味を持てないと、忙しい VC は早々にウィンドウを閉じてしまうということです。では、成功したプレゼンと失敗したプレゼンの両方を構成という観点から詳しく見てみたいと思います。また、投資家がどの部分に多くの時間を割いているかも確認してみましょう。
上記のグラフは、成功例と失敗例の違いについて重要なポイントをいくつか示しています。まず、成功する資料は例外なく目次がありません。単刀直入に本題に入り、余分な情報を載せていないのです。次に、資金調達できたプレゼン資料では製品のセクションと時期(なぜ今なのか?)の両セクションを資料の前の方に配置しています。こうした構成にすることで、VC は企業理念と解決すべき問題をすぐに把握できます。最後に、資金調達できた資料はかなりの確率で主要な競合要素に関するセクションを用意していました。
また、創業メンバーによってもプレゼン資料の構成を変える必要があるかもしれません。シード ラウンドにある企業で、メンバーの全員が男性または全員が女性だった場合のプレゼン資料について見てみましょう。私たちが実施した調査では、どちらのチーム構成でもビジネス モデルのセクションは重要で、投資家は最も長い時間をかけて読んでいました。しかし男性のみと女性のみのチームを比べると、女性のみのチームでは、投資家が 48 % も長い時間をかけてビジネス モデルを確認していました。さらに、トラクション(推進力)のセクションには 77 % も多くの時間、市場規模のセクションには 200 % も多くの時間を費やしていました。
データから得られたポイント:プレゼン資料は簡潔かつ単刀直入に書きましょう。製品を前面に押し出したストーリーを伝えましょう。重要なのは、企業理念、課題、解決策の各セクションから、自然な流れで製品セクションへとつながる構成にすることです。またこれらのセクションで、あなたの会社に投資すべき絶好のタイミングが今である理由を明確に示す必要があります。もう 1 つ重要なポイントがあります。起業家の皆さんは、自分自身のアイデアを革新的だと思っているかもしれません。しかし、解決しようとしている課題は、ずっと前から存在していませんか?投資家はこれまでにも、そうした問題に正面から取り組んで解決しようとしてきた人たちを見てきた可能性がある、ということを念頭に置いておく必要があります。創業メンバーの構成にかかわらず、収益化の計画をしっかりと説明し、自社ならではのプロダクト マーケット フィットを強調しておくことは必須です。また、シンプルにすることも大切です。資料の最初の方で魅力を感じられなければ、投資家はその先を読まないでしょう。スライドはわかりやすく簡潔にし、不必要に複雑にしてはいけません。
変わり続ける投資家の期待に意識を向ける
資金調達に結びつく資料作りとは、単にセクション構成に気を配るだけではありません。VC が注目するセクションは時代とともに変わってきます。また、資金調達のラウンドごとにも異なります。たとえば、シリーズ A の資金調達段階になっていたら、起業理由というプレシード段階の話は重視されないかもしれません。DocSend では、起業家が投資家の期待をしっかりと把握できるよう、変化し続ける投資トレンドを取り上げたラウンドごとのレポートを毎年発表しています。
では、プレシードのレポート例に戻って、この時期の実態を見てみましょう。このレポートのデータを見てみると、2020 年は 2019 年と比べて、投資家が 3 つのセクション(競合分析、製品の準備状況、ビジネス モデル)に多くの時間を費やしていることがわかります。
昨年のスライド閲覧時間の変化は、投資家による資料の評価方法が変わったことをはっきりと物語っていると言えます。投資家は製品の準備状況に関心を寄せていました(データを見ても、全企業の 90 % がアルファ ステージの段階で製品を用意していました)。しかし、同じくらい重要な点として、企業がどのように収益化しようと考えているか、そして市場の中でどのように自分たちの立ち位置を確立しようとしているかも注目されています。つまり、投資家が興味を示すプレシード段階の企業とは、単に優れた製品ビジョンがあるだけでなく、洗練されたビジネス プランを用意できているビジネスなのです。
チームのメンバー構成を調査したときにも、これら 3 つの変化が見て取れました。過小評価されたマイノリティ(URM)のメンバーがいる場合もいない場合も、競合分析、ビジネス モデル、そして製品の各セクションはこれまでどおり非常に重視されています。ただし、マイノリティのメンバーがいる場合の方が、これらのセクションがより綿密なチェックを受けていることもわかります。
マイノリティ メンバーがいるスタートアップでは、ビジネス モデルのセクションで 140 %、製品セクションでは 78 % も多くの時間が費やされていることがわかりました。こうしたデータから見えてくるのは、プレシード ラウンドにおける資金調達は、かつてないほど厳しくなっているということです。「とりあえず形にした」だけの PowerPoint では通用しない時代になっているのです。
ラウンドごとに求められている内容に差がある、ということにも投資家は注意を払うべきでしょう。たとえば、「時期(なぜ今なのか?)」のスライドはプレシード ラウンドでは非常に重要なのに対して、昨年のシリーズ A ラウンドのデータを見ると、閲覧時間が特に長いセクションの一覧には入っていません。シリーズ A ラウンドの企業はすでに市場の中でトラクション(そして成功)を得ているため、ビジネス モデルの拡張により注力していくべきだと考えられているからです。
データから得られたポイント:ビジネスが成長していく中、企業のストーリーやプレゼン資料もその成長に合わせて発展させていく必要があります。投資家は、企業が成長する各段階でそれぞれ異なるストーリーを期待しています。資金を獲得して次のラウンドへと進むためには、どのようなタイプの成果を見せる必要があるのかをしっかりと把握しましょう。また、資金調達における最新の傾向を常に念頭に置いていても損はしないでしょう。
データを踏まえて自社ならではのストーリーを伝える
資金調達への道は、スタートアップごとに異なりますが、DocSend の調査データを活用することで、プロセスやプレゼン資料を差別化するための基本的な要素がわかるようになります。DocSend のサイトでは、効果的なプレゼン資料について詳しく解説しています。強調すべき中心的ストーリー、投資家が気にしている情報、時代とともに変化する要素、性別や人種といった創業メンバーの属性が各ステージでの資料の確認に与える影響などを取り上げています。こうしたインサイトを武器にすれば、ビジネスを成長させるための資金をスムーズに獲得できるようになるでしょう。